こんちゅう

エッセイ・小説・ブログ・楽譜置き場。 不定期更新。

満足化社会の方程式(一日一冊、2/21)

今日も今日とて図書館に行くと、「堺屋太一 追悼コーナー」なるものがあるではないか。私は不勉強なことに堺屋太一という人物のことをこれっぽっちも知らなかったが、まあ折角の機会ということで、仰々しく飾られてあったうちの一冊を手に取った。こういう図書館の特設コーナーは、一日一冊企画にはもってこいだ。

堺屋太一という人は、元通産省の閣僚であり、「団塊の世代」という言葉を生み出した張本人である。おそらく私と同じくらいの世代の人なら分かってくれると思うのだが、小さいころ、テレビや本にぱっと出てくる「団塊の世代」という言葉を見て、いったいこれは何を示すのだと頭にハテナを浮かべたものである。
後世の人のことも考えて、もっと分かり易い名前にしてくれてもよかったのにと、思わないでもない。

そんな冗談はさておき、「満足化社会の方程式」(堺屋太一日本経済新聞社、1994)、例のごとく古い本なのであまり参考にはならないが勉強にはなる。
タイトルから想像はつきにくいが、東西冷戦が終結し、バブル経済がはじけ日本が不況に陥りだした時代において、現在の行政構造や産業構造、経済状況を歴史になぞらえて解析している。例えば、政治でいうと冷戦が終結したことにより、長らく続いた自民党社民党による議会体制(55年体制)が崩壊し、さらに今までの官僚主導の政治を変えようという動きがみられる。
経済の分野では、バブル経済の崩壊、長引く不況、さらに海外の影響により今までの日本式経営法――つまり、年功序列であり、終身雇用制であるような経営法が上手くいかなくなっており、これまでとは全く違う組織体質や新たな価値創造、つまり数を売るのではなく消費者の欲求を満たすような商品供給が求められていると指摘する。

その他にもいろいろなことが書かれていたが、基本的には1990年代前半の日本を取り巻く政治・経済の状況の説明に終始している。というのも、この人、wikipediaで調べるとものすごい数の著書がある。およそ1年に1,2冊ほど出しているので、昔の時代の政治状況などを知りたいわけでは無ければ、基本的には最新の、新しい本を読むといいと思った。当たり前の話なのだけれどね。

現在ではどうなのだろう。政治体制は長らく自民党民主党の二大政党制が続いていたように思われる(し、実際政権交代も果たした)けれど、昨今のゴタゴタを見ていると今後どうなるか全くわからない。
経済はどうだろう。間違いなく20年前よりも悪化しているように思われるけれど。日本式経営法もいまだ健在だが、それでもかなり影を薄くした印象を受ける。
世界情勢においては基本的に20年前から変わらず、つまり東対西という構造を失った世界各国は自国の利益を追及することに奔走している。国際組織が全く機能していないのも変わらない。違うことといえば、中国やインドなど発展途上国がみるみる力をつけていることくらいだろうか。

温故知新とはいうものの、こういう話は実際に経験しないとなかなか実感が沸かない。それは私たち平成生まれが、人々がみな公衆電話に寄ってたかっていた時代を想像できないのと同じである。本でこういった知識をつけるのはいいが、実際にそれが活用できるかは、ううん、あまり自信がない。

 

満足化社会の方程式―乱期を解く!

満足化社会の方程式―乱期を解く!

 

 

「勝ち組」大学ランキング(一日一冊、2/20)

10時間ほど寝ていて頭が痛い.どうすれば治るのだろうか.

という訳で寝落ち&寝落ちにより2/18と2/19分の感想文はこの世に存在しない。毎日続けるといっても結局途切れる運命にあると考えるともの寂しく同時に己の無力さをひしひしと感じるが、まあ時を遡って書くのもアレって感じで「俺は眠かったんや!!!!」という自己正当化のもとで何もなかったかのように続きます。はは。

今回手に取ったのは教育分野より「「勝ち組」大学ランキング」(中井浩一,2002,中央公論新社)である.内容としては少し古いため,今読んでも仕方がない感は否めないが,とにかくバブル崩壊後の,大学が構造改革を迫られたときのお話である.東大や京大といった大学は構造改革に成功したが,主体性のない大学は文科省の言うとおりに動くだけでまるで幼稚である,といったことが書かれたのち,1990年代の東京大学においていかに激しい議論が巻き起こり,どのようにして大学改革が起こったのかがつらつらと書かれてある.

まあ個人的には,かなり昔に起こった話であるし正直大学の構造についてあまり理解がなく,一言で言うと興味がないに尽きるが,それでも我々と何の関係もない話ではない.例えば東京大学の英語教育が他と(少なくとも京都大学と比べて)優れているのは事実であろうし,教養学部の名残として配置されてある京都大学の「一般教養」も,その全てが上手く機能しているとは言い難い.

しかしながら,例えば私の所属する情報学科では,一般教養の数学はほぼ必ず情報学科の教員が担当しているし,それはすごく良いことであろう.この本の中では,将来的に(2002年時点での話だが)総合人間学部と人間・環境学研究科が教養教育を全面的に担当することを期待されているが,何も画一的にする必要はまったくない.特にうちの大学なんかは自由をウリにしているのだから,そのあたりフレキシブルに,言い換えると適当にしとけばいいのである.多分.知らんけど.

 

「勝ち組」大学ランキング―どうなる東大一人勝ち (中公新書ラクレ)

「勝ち組」大学ランキング―どうなる東大一人勝ち (中公新書ラクレ)

 

 

シャーロック・ホームズはなぜ外見だけで人を見抜けるのか?(一日一冊、2/17)

地元の図書館が復活したので,今日からはここで本を読んでいく.自然科学のコーナーに数多の数学の本が立ち並ぶ姿をみたとき,思わず感動してしまった.当たり前だと思っていたものが実は当たり前ではないことに気付かされ,とてもいい経験となった.(もちろん,臨時で使用していた隣町の図書館も,小さいながらも落ち着いた雰囲気で非常に良かったですけれどね)

 

今日選んだのは「シャーロック・ホームズはなぜ外見だけで人を見抜けるのか?」(斎藤勇,2013,宝島新書)という本だ.著者は立正大学の教授ということでまあ安心かなと思い手に取ったが,まあ酷い内容だった.
シャーロック・ホームズが初めて会った人物の素性をズバズバ当てていくシーンを導入とし,人の仕草,行動パターンなどからその人の特性を見抜く方法が書かれているが,まず大前提として,シャーロック・ホームズはフィクションストーリーである.それをさも現実にも適用できるのだという導入をしている時点で腹立たしいし,何よりも,「〜という容姿を持つ人は〜だ」「〜という行動をする人は〜だ」という決めつけが全く学問的ではない.こんな,血液型性格診断と何も変わらないようなことをツラツラと書いているだけなのに,煽り文に「心理学研究の第一人者」と称されているのだから救いようがない.


こんな本を読むくらいなら,私がこの一日一冊企画で以前に読んだ「はじめて学ぶパーソナリティ入門」を読んだほうが遥かに有意義である.この本は,統計的観点をベースとした心理学であるのでアカデミックな内容となっている.血液型性格診断がなぜ適当でないのかも記述してある.

 

ともかくこの本は本当に良くない.そもそもこの本を取ったきっかけは,図書館の2月の特集で「黄色い本を集めました!」と称し入り口にずらっと並べてあったからなのだが,そもそもカバーの色が黄色だというだけでひと括りにまとめるのも正気の沙汰ではない.どうしても黄色い本を集めたければSpringerの本でも並べておけばいいのだ.

 

シャーロック・ホームズは なぜ外見だけで人を見抜けるのか? (宝島社新書)
 

 

楽しい金魚の飼い方・育て方(一日一冊、2/16)

静岡に行ってきました。静岡おでんは本当に美味しかったです。また食べたい。

さて今日の一冊ですが、あまり時間もなかったので簡単に。「楽しい金魚の飼い方・育て方」(田中深貴雄、永岡書店、1995)
この本を読むと、金魚の正しい飼い方・育て方がわかります。金魚というと、お祭りの金魚すくいでゲットした金魚を適当に水槽に入れて餌をやるも1,2か月ほどで死んでしまうイメージですが、正しく酸素をやり、餌をやり、丁寧に育てると、なんと5,6年もの間、長いと10年以上生きるそうです。さらに繁殖させると、稚魚から金魚を育ててやることもできます。
すごく楽しそうです。私も、金魚を飼うときはこのような本を参考にしながら、大切に育ててあげたいと思いました。

 

まあ飼わないんですけどね。

 

 

楽しい金魚の飼い方・育て方―金魚のすべてがわかるカラーグラフとポイント解説

楽しい金魚の飼い方・育て方―金魚のすべてがわかるカラーグラフとポイント解説

 

 

がんで余命ゼロと言われた私の死なない食事(一日一冊、2/15)

 

いよいよ手をだしてしまったという感じがある.民間人による健康,それもがん治療の本だ.
とはいえこの著者はテレビにも出演したこともあり,なかなか名前が通っているらしい.そして肝心の本の中身も,まあそこまで極論に走っていないかなあという内容だった.

 

内容としては,がんで余命ゼロと言われた著者の神尾さんが,抗がん剤に頼ることなく14年もの間,食事の力だけで生き延びてきたという話.野菜は本物の野菜をとか,食品添加物は良くないとか,工場で精製された調味料(砂糖,塩,しょうゆなど)は良くない,体を温める食事をしなさいなど,まあ常識的な範囲であり,素人目に見て「これ実行しちゃヤバいでしょ」というのはなかった.

がん云々は置いておいても,まあ最高に健康な食事を目指せばそうなるわなという感じだった.今後どうしようもなく体の調子が悪くなり,薬もあまり効かないとなったら,この本に書いてあることを参考にするかもしれない.
ただもちろん,ケースバイケースである.この人にとってはこの方法ががんに効いたんだろうが,他の人にとってはどうか分からない.今やがんの治療も発展していっているので,私がもしがんにかかったときにどうするかはまた別の話だ.

ところで,こういうことを本当に研究している人の本なんかがあれば読みたいものである.この本は根拠が余りにアバウトで,もちろん科学的なんかとは程遠い存在であった.
(例えば,この人はもともとフレンチのシェフなのだが,がん治療に日本食を採用している.その理由は「昔の日本人はがんなんかほとんどかかっていなかった」なのだが,それは本当に?という感じだし,そもそもじゃあ昔のフランス人はがんにかかりまくっていたのかという話である)

 

がんで余命ゼロと言われた私の死なない食事

がんで余命ゼロと言われた私の死なない食事

 

 

「日の丸」を科学する(一日一冊、2/14)

今日はタイトルの通り,「「日の丸」を科学する」という本を読んだ.まず批判から入ってしまうのだが,タイトルがよくない.「科学する」と銘打つ意図としてはおそらく,しっかりと文献や資料などに基づいた考察を行う,ということだろうが,それは本として至極当然のことである.日の丸という(当時にすれば)センシティブな話題ではあるのだが,感情論ではなく証拠に基づいていることをいちいち言わないといけないところに日本の”有識者”のレベルの低さに落胆する.

 

それはともかくとして,この本はタイトルの意図したとおりかなり中立であったような気がするし,内容自体も面白かった.
まず「日の丸」の起源について述べられ,さらに,「日の丸」に関する法律,他の国の国旗との関連,国旗に関するエチケットなどが書かれていた.驚いたことに,「日の丸」の正式なデザインは法律で定められていないらしい.

筆者は日本を代表する旗章学者であるので,国旗や日の丸に興味のある人は是非読んでみるといい.幼い頃から慣れ親しんでいるはずの日の丸について,私達の知らない情報がたくさん載ってある.

 

 

さて,ここからは少し政治的な話題になるので,極力言葉を選んで書く.日本には「日の丸」や「国歌」に対して嫌悪感を持つ人も多く存在する.それを知ったのは大阪の国旗国歌条例で,国歌斉唱のさいに起立しない職員が処罰されたニュースを見たときだ.私としては「ちょっと起立すればいいだけなのにどうして拒否するのだろう」と不思議がっていたのを覚えている.

日本は「日の丸」を掲げて軍国主義に走り,数多くの過ちをおかし,尊い命を奪っていった過去がある.そのことから,日の丸を軍国主義の象徴とみなし,国旗や国歌というものに対して反発する人が多いという.

しかし,私は違うと感じている.国旗や国歌のもとに,日の丸や君が代のもとに,私達日本人が存在しているのではない.はじめに日本人がいて,そして政府が,国が,国旗が,国歌が存在するのだと思う.
過去に軍国主義に走ったのは日本人だ.しかし今はそれを反省し,今は民主国家として世界のリーダーシップをとることを期待されるまでに成長した.私達は日本を,日の丸を,平和の象徴として掲げている.そしてそれは私達の誇りだ.私は,戦争でお国のために亡くなっていった人たちに最大限の敬意を払いたい.そして,貴方達が守ろうとした国は,日本は,日の丸は,過去の過ちを反省し,今や平和の象徴として掲げられているのだということを,日の丸を掲げ続けることで示したいのだ.

結局,旗というのは(少なくとも日本においては)シンボルでしかない.逆に言うと,そのシンボルを否定することは日本人を否定することに等しい.最近,某旗について近隣諸国と色々揉めているが,そんなゴタゴタは日本においても散々やってきた.旗がシンボルにすぎないこと,日本人は過去と違い明確に平和を目指していること,そして今,日の丸が日本でも,世界でも受け入れられていることを考え,某旗についても認めてもらいたいものだと,個人的にひっそりと思う.

 

 

「日の丸」を科学する

「日の丸」を科学する

 

 

おのぞみの結末(一日一冊、2/13)

ここ数日は少し忙しいので,簡単に読める本ばかりを選んだ.

今日は「おのぞみの結末」,星新一ショートショート集だ.
星新一ショートショートというと,どこか小中学生向けなイメージを持たれるかもしれないが,私は大好きだ.
非常に短い小説ながら,最後の最後までオチが全く見えてこない.このワクワク感がたまらない.

さらにもう一つ注目したい要素がある.挿絵だ.星新一の挿絵は真鍋博という人物がしばし担当しているのだが,その世界観がたまらない.無国籍で無機質な星新一の小説をほのかに色づける,その塩梅がぴったりなのだ.

ちなみに,私は1年前くらいに,国立国会図書館の「挿絵の世界」という企画展示を見に行ったことがあり,そこに星新一の「ボッコちゃん」の初出雑誌が展示されていたのだが,そこに掲載されている挿絵も彼のものであった.
その雑誌の刊行日は1962年である.これだけ長く人々に愛されていながら,なお古めかしさを帯びないこのコンビは,日本において他にはなかなかないのではなかろうか.

 

おのぞみの結末 (新潮文庫)

おのぞみの結末 (新潮文庫)