こんちゅう

エッセイ・小説・ブログ・楽譜置き場。 不定期更新。

プロローグ

華やかなチャイム音とともに、新郎新婦は時計台からゆっくりと歩いてきた。地面には赤いカーペットが敷かれ、僕たちはそれを挟み込むように立っている。空には雲一つない。

真っ白なウエディングドレスに身を纏った花嫁が笑顔をふるまいている。新婦はどこかぎこちなさそうな印象だったが、それでも嬉しそうな顔でにやけている。

「あぁ、綺麗なドレス。私も着てみたいなぁ」

隣の優子がうなだれる。もう僕と同じ15歳なのに、やけに子供っぽいことを言うものだ。

「優子ちゃんにはまだ早いわ。あと10年くらい大きくならないと」

「うう・・・先は遠い」

「大丈夫、きっとすごく似合うと思うわ。10年後、優子ちゃんがここの時計台から歩いてくるのがすごく楽しみよ」

母さんはそう言って僕のほうをちらりと見る。むっとして僕は視線を逸らす。

「それに、1か月後の式で、立派な衣装を着れるじゃない」

「うーん、悪くはないんだけど、なんだか古臭くっていやだ」

「あら。そんな事いっちゃあ、バチが当たりますよ」

「へいへい」

そんな他愛もない話を繰り替えす母と優子。正直なところ、僕にとって衣装なんてどうでもいいんだ。

 

結婚式は滞りなく進行した。大がかりな披露宴、新郎新婦のスピーチ、さらに妙な余興も行われた。なにせ島中の人全員が来ているわけだから、どこもかしこも大盛り上がりだ。

あそこでは島の長の永村さんが酒を飲んで大笑いしている。そこでは島内唯一の警察官の谷瀬さんまでもが来て楽しそうに歓談している。

 

さて僕はというと、隅っこのほうで黙って料理を食べていた。

10年後か――僕は一体どこで、何をしているのだろうか。歓声うずめくこの結婚式場で、僕は独り考える。高く高くそびえ立つ、時計台を見つめながら。

 

 

夜中。

披露宴も終わり、皆がそそくさと逃げるように家に帰る。

さっきまでの賑やかな様子とは打って変わって、深く静かな闇が島全体を覆いつくす。

静かだ。

あまりに静かだ。

 

隣の部屋にいる親が寝静まった事を確認して、ベッドから出る。

僕は机の引き出しからナイフを取り出して、そっと手首に切りつける。

一筋の細い切れ込みが入り、ほのかに淡く染まり始める。そしてしばらく経つと、真っ赤な血が僕の体内からどばっと流れ出る。

良かった、今日もまだ生きている。そうやって安心しながら、患部に絆創膏を張り付ける。ここまでが僕の日課――儀式だ。

 

この人口500人足らずの孤島にいる、僕以外の大人は皆、機械だ。僕はそのことを知りながら、15年もの間必死に耐えながら生きてきた。

でも、もう終わりが近づいてきた。1か月後に迫る成人の儀式。満15歳になったらこの式に出るのが古くからの習わしなのだけれど、この島における「成人」が何を指すのかなんて分かったもんじゃない。

 

僕はこの島を脱出する。一か月以内に、必ず。

 

 

 

―――「孤島」

 

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2016/7/10