こんちゅう

エッセイ・小説・ブログ・楽譜置き場。 不定期更新。

2

<<1

「ボートぉ?」

3人は怪訝そうな眼でこちらを見てくる。まぁ想定済みの反応だ。

 

「考えてもみろよ。僕らもう中3で15歳だってのに、一度もこの島から出たことがないんだぜ?TVなんか見ると、外の奴らは楽しそうにカラオケ行ったり、ゲームしたり。僕らだって自由に遊ぶ権利があるはずさ」

「・・・つまり、ボートを作ってこの島を出ると?」

隆信が驚きの表情を浮かべる。僕は続ける。

「そうだとも。とりあえずここから一番近い島に行くんだ。ボートで漕いで。そこもまた小さな島だけど、本屋もあるし、ゲームショップだってある。普段はこの島の大人達に制限されているようなことも、何だって自由にできるのさ」

 

ここまで話終えると、慶介と優子は目を輝かせていた。

「いいじゃん、やろうやろう。俺、一回”漫画”ってのを読んでみたかったんだよ。あとはゲームとか、たくさん買いまくるんだ」

「私は服を買いたいなぁ。この島に送られてくる服って、どれもこれもダサくて地味で、もう嫌になっちゃう。TVで見るようなオシャレな服がその島にあるといいんだけど」

なんだか勝手に盛り上がっている。隆信は不満そうに横やりを入れる。

「いやいや、でも、そんな大人達に話さずに勝手にボートで島を出たりしちゃ、絶対怒られるよ。それも、こっぴどくね」

「大丈夫さ、4人で口裏を合わせて”沖で釣りしてました”、って言えば。買ってきたものはここに隠せばいい。それに、別にバレて怒られたって構いやしないさ」

「そうよ。こんなチャンス、滅多にないわ。あぁ、お金足りるかな」

隆信はまだ不満そうな顔をしていたが、概ね僕の意見は受け入れられたそうだ。ほっと一安心。

 

「で、具体的にはどうするんだよ。そもそも、中学生4人なんかでちゃんとしたボートが作れんのか?」

「そこら辺は大丈夫。ちょっと待ってて」

僕は持ってきた荷物の中から、何枚かの紙を取り出す。

「これが設計図。ちゃんとそれ専門の雑誌で調べたから、強度は確かなはず」

3人がおお、とのぞき込む。「そういや、武は日曜大工が趣味だったな」

「まぁね、すでに小さいモデルで試しに作ってある」

僕は鞄からミニチュア・ボートといくつかの工具を取り出す。

「ボートはここの秘密基地で作る。ここらには材料の木が有り余ってるし、大人達から隠すには最適の場所だ」

「え、じゃあどうやって海までボートを運ぶの?」

「実はここに流れている小川は、すぐそこにある茂みを超えると比較的大きな川と合流して、僕たちの集落と反対側の海岸に出るんだ。その川を慎重につたっていけば、見事誰にも目視されることなく海までたどり着けるって訳さ」

おおお、と3人が声を上げる。そうとも、これは完璧な作戦だ。

 

「そういう訳でみんな、決行は8月20日の朝にする。ちょうど島のみんなが、次の日の僕たちの成人の儀式のために、時計台に集まって準備をするんだ。その日なら海に出てる漁船も、連絡船もいない。さらに、川を下っている最中に誰かに見つかってしまう可能性も少ない」

「それじゃあ、朝に出て、夕方くらいに戻ってくるってことかな」

「そゆこと。上手くいけば騙せるし、まぁ怒られてもしょうがない」

相変わらず怒られる話になると隆信はしかめっ面になるが、そんなことは気にしない。

 

「さあ、今日から1か月、なんとか間に合うように頑張ろう!」

「ボート作りもいいけど、海水浴も忘れないでよね」

「野球もしたいな、野球」

「宿題のことも覚えておいてくださいね・・・」

僕達4人は本当に仲良しだ。そのことを嬉しく思いつつ、僕は彼らにボート作りの指示を出す。

 

 

 

―――でも、僕は彼らに嘘をついた。僕はボートで向こうの島に渡る気はあっても、帰ってくる気は微塵もない。

これは、僕の最後の挑戦だ。僕が、成人の儀式を経て、機械へと成り果ててしまう前の。そのために僕は、大工のスキルを獲得したし、ボート作成についての雑誌をなんとか手に入れた。

実を言うと僕は、前に自分の庭でボートを作ろうとしたことがあったのだけれど、その時は親父にひどくどなられた。島を出て何をするつもりだ、と。なんとか言い訳をしてごまかしたけれど、次ばれたらタダじゃ済まないだろう。隠密にやる必要があったんだ。

結果として、僕以外の15歳3人を巻き込んでしまうこととなったが、僕は彼らが機械だとは思わない。何故って、僕は彼らの血を――転んだり打ったりしたとき、彼らの皮膚から流れ出る血を、僕は小さいころから何度も見てきたからだ。こんなもの、彼らが機械でない理由のうちに入らないかもしれないけれど、とにかく彼らは違う――そう、結局ただの僕の直感さ。

 

だが、僕はパーツを揃えた。あとは、完成の時を待つだけだ。

 

3>>

2016/7/24

広告を非表示にする