こんちゅう

エッセイ・小説・ブログ・楽譜置き場。 不定期更新。

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僕たちは毎日朝から晩まで、本当にたくさんのことをした。ボート作りはもちろん、海水浴や野球、バーベキュー、花火、すいか割り・・・いずれも慶介と優子のリクエストだったのだけれど、どれもこの上なく楽しかった。一瞬、機械のことなんて忘れてしまうくらいに。

でも、僕たちはボートを完成させなければならない。ノコギリで手ごろな木を切って、板状にした後に、設計図通りに組み立てる。特に木を切った後に加工するのがすこぶる大変だ。僕たちの手はすぐにダメになってしまい、しばし休憩を挟む。なかなか思った通りには進まない。それでも僕たちは着実にボートを完成させていった。

僕以外の3人がこんなにもボート作りに積極的になっているのは、とても頼もしい。彼らもやはり島から外に出たかったのだろう――つまり、彼らは機械ではないのだ。改めてそのことが立証された気がして僕は嬉しかった。

一日の作業が終わるころには、夕暮れの茜色が僕達の秘密基地を優しく包み込む。鳥たちは海に向かって何かを語り掛けるように鳴きじゃくる。僕はたまにふと思う、こんな時間がいつまでも続けばいいな、と。

 

 

1か月という期間はあまりにもあっけなく過ぎていった。

時は8月20日、決行の日だ。

しかし、まだボートは完成していない。

 

 

「ったく、なんとか完成したと思ったら、水漏れとはなぁ」

「ねぇ、もうこんな時間になっちゃったけど、どうする?」

時は夜8時。明日の成人の儀式の準備なんてもうとっくに終わって、もう大人達はみんな家に戻っている。

僕たちはなんとか今日の昼にボートを仕上げて、さあ出発だというときに、あろうことか水漏れが発生してしまった。それを直すのに結構手間取ってしまい、結局こんな時間になってしまった。僕たちの秘密基地はすっかり闇に覆われている。

 

「まあ、夏休みが終わるまでまだ少し日はあるし、また次のチャンスにすればいいんじゃないかな」

「そうだね。今日はもうすっかり夜だし、これ以上帰るのが遅くなると親も不審がるよ」

「ちょっとまってくれよ」僕はあわてて言う。「せっかく作ったんだから、今から行こうよ。次の機会なんて絶対に訪れない」

「いやいや、もう8時だぜ?暗すぎて何にも見えねぇよ。もう帰ろうぜ」

慶介たちは例の根っこのトンネルをくぐって表の道に出ようとする。

「待てよ。おい、せめて、明日、明日の朝にしよう」

僕はあわてて彼らを追いかける。狭いトンネルの中だってのに、僕達はすごいスピードでくぐりぬける。

「なんだよ武、明日の成人の儀式でないつもりか?」

「えぇ、私もう衣装の準備とかしちゃってるし。また今度にしようよ、ね」

いいや、今度じゃあダメなんだ。明日、成人の儀式が始まるまでになんとしてでもこの島を抜けださないと。そうでないと、僕達は機械になってしまう。

 

トンネルを抜けて僕たちは道に出る。空には月がきれいに輝いていた。満月だった。

「じゃあ、明日の朝迎えに行くからな、絶対来いよ」

「本当に行くつもり?悪いけど、僕はパスだな」

「わたしもー」

「俺も」

ちくしょう、どうしてこいつらは分かってくれないんだ。

いっそのこと、こいつらに機械のことについて喋ってしまおうか。そうすればきっとこいつらも――いや、いきなり突拍子もないことを言ったって、絶対信じてくれない。

そうなれば、僕一人だけでもこの島を脱出してしまおうか。いや、こいつらを見捨てるのか、あぁ、何かいい考えがないか。僕たちが自然に、成人の儀式が始まるまでにこの島を抜け出せる方法が。朝、釣りに出ようと言ってなんとかごまかす?試し運転をしてみようと誘う?それとも―――

 

 

 

―――考え事に夢中になっていた僕は、背後から近づいてくる人影に、全く気が付かなかった。

 

「こら!お前らいったいそこで何をしとるんだ!」

急に背後から怒声が飛んできた。

僕たちはいっせいに振り返る。

 

 

 

そこにいたのは、島内唯一の警察官、谷瀬さんだった。

どうやら明日の時計台の準備で、遅くまで残っていたらしい。なにせ、時計台を管理しているのは谷瀬さんなのだから。

 

「こんな遅い時間まで、お前たちどこをほっつき歩いてるんだ!早く家に帰りなさい!」

「ごめんなさぁい、おまわりさん。遊んでたら、けっこう遅くなっちゃって」

僕は咄嗟に無邪気な子供を演出する。ここでボートと秘密基地の存在がバレたら何もかもがおしまいだ。島を脱出する希望は一ミリたりとも残らない。

他の三人は驚きと緊張のあまり固まってしまっている。下手なことを言われないだけマシだ。

「まったく、最近のがきんちょはどうなっとるんだ・・・・・・ん?」

谷瀬さんがなぜか僕のほうをじろりと見つめる。

じっと見たまま、動かない。

冷や汗が出る。

どうして僕のほうだけを凝視するのか。

緊張して手が震えてきた。

手が

 

 

「お前、その金づちはなんだ?」

 

 

バレた。

3人を慌てて追いかけたから、道具を秘密基地に置いてくるのを忘れていたのだ。

 

 

すぐさま持っていた金づちで谷瀬さんの胸のあたりを殴り、相手が狼狽えている間にトンネルに逃げ込んだ。

僕は、完全に固まってしまった3人に向かって叫ぶ。「おいお前ら、バレるのは時間の問題だ!他の大人達に知られる前に、ボートに乗ってこの島を脱出するぞ!」

 

 

 

 

 

そう叫ぶはずだった。

 

谷瀬さんは、僕が金づちで殴ったあたりからバラバラに砕け散っていった。

表面に何本もの亀裂が入り、それらが体全身に伝わっていき、見る見るうちに残骸へとなり果てていった。木の裂ける音がした。何本ものネジがあちこちから飛んできた。最後にのこった頭は、数秒の静寂ののちに爆発し、跡形もなく消え去った。

 

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2016/7/31