こんちゅう

エッセイ・小説・ブログ・楽譜置き場。 不定期更新。

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目の前に広がるのは、上に伸びる螺旋階段と、地下へと続く小さな梯子。

螺旋階段を上り時計台の頂上に行けば、何かが分かるかもしれない。

この島のこと、そのすべてが明らかになるかもしれない。

どうして大人たちは、機械なのか。

そして僕たちは、どうして今までそのことを知らされずにに生きてきたのか。

 

――でも、僕も優子も、そんなことはもう知りたくはなかった。考えたくもなかった。

もはや僕達は、現実という悪夢から早く逃れたい気持ちでいっぱいだった。

 

 

長い長い梯子を慎重に降りてゆく。下に行けば行くほど暗くなってゆき、降り切ったころにはほとんど何も見ることが出来なくなっていた。

どうやら地下は、通路が伸びているらしい――しかも、ところどころに分岐が挟まっており、複雑な迷路みたいになっている。

僕たちは手をつなぎながら、闇の中を壁伝いにゆっくり進んでゆく。空気はじめじめしていて、不愉快な感覚が僕達を包みこむ。嫌な汗が出てくる。

 

かなり長い時間歩いた。暗闇のなかだから、どの方向に歩いているのか分からない。もしかしたら、同じところをぐるぐると回っているだけなのかもしれない。この迷路には、本当に出口があるのだろうか。僕たちはますます不安になってきた。

とてつもない疲労感が僕達を襲う。すこし休憩が必要なようだ。

僕達が無言のまま座り込んだ――その時。

 

「・・・風」

優子がぼそっと呟いた。

そうだ。風だ。ここにきて初めて、この地下の通路にいつのまにか、ゆるやかな生暖かい風が吹いていることに気づく。

「もしかしたら、出口が近いのかもしれない」

このチャンスを逃したら僕達は一生ここを出られないかもしれない。

足はくたびれ、体は泥だらけで、いくらか虫に刺されて痛い。それでも最後の希望を頼りに、気力を振り絞って歩んでゆく。

 

またしばらくの時間進んでいくと、今度は光が射すのが見えた。

出口だ。

言いようのないほどの安心感に包まれた。僕たちはこの長い長い迷路を、ようやく抜け出すことができたんだ。

 

 

 

 

外の世界に出て、僕と優子は立ち尽くしてしまった。

そこは、僕達の秘密基地だった

 

”実はこの秘密基地にはいくつかのルートがあって、中には僕ですら知らないものもある”

このことが意味することは何か――いや、僕も優子も、もはや考えることはない。考えてしまったら、僕達の心が壊れてしまいそうだったから。

 

 

僕たちは周りに人がいないことを確認して、ボートを近くの川まで動かす。2人だと重くて、運ぶのに苦労した。

小川に浮かべた後、僕の”計画通り”にゆっくりとボートを進める。流れに沿って、どんどんとスピードが速くなっていく。速くなっていく。

いくつかの茂みを超え、島の反対側の大きな川に合流する。大人たちはいない。

そのままの速度で海に出て、僕たちは島を脱出した。

 

 

ある程度沖合に出ると、僕はオールを取り出して、ゆっくりと漕いでゆく。潮の流れが良いせいか、あまり力を入れなくても、ボートは勝手に島から離れるように進んでくれた。

ひとつ落ち着いたところで、急に島の時計台から鐘の音が鳴り出した。

深夜0時――日付が変わり、今日は成人の儀式の日だ。

島が、輝いていた。いつもならみんな寝てしまって真っ暗なのに、今日はまるでホタルの群れのごとく、島全体が淡く光っていた。

その中でも頂上にある時計台は、特に目立っていた。島の外から見る時計台が、こんなにも綺麗だなんて、初めて知った。

 

僕たちは島の方向を見つめなおす。

僕達の育ってきた島、そしてたくさんのものに別れを告げながら。

優子のすすり泣きが聞こえる。僕は黙ってボートを漕ぎ続ける。

 

鐘の音は、いつまでも、いつまでも響いていた。

 

(end)

 

2016/8/28