こんちゅう

エッセイ・小説・ブログ・楽譜置き場。 不定期更新。

ロボットは東大に入れるか(一日一冊、2/23)

今日は所用あって国立国会図書館に来た.この図書館では基本的に書物は書庫に保管されており,我々がインターネット上で貸出申請を行い,取ってきてもらうのがスタンダード・スタイルとなる.
しかし,開架に何も本がないというわけではない.今ざっと見渡したくらいでも,おおよそ京都大学附属図書館程度の本は陳列されている.もちろん,ジャンルには偏りがあり,特に司法関係や政治関係の議事録が多いのは間違いないが.

貸出申請を行い手持ち無沙汰となった私は,今日の一冊はここから選ぶかということで,情報関連の書架を見に行った.驚いたことに,もちろん京都大学のそれと比べると断然少なくはあるのだが,それでも十分な量の本,特に最近の,ディープラーニングに関する技術書や,今日選んだ「ロボットは東大に入れるか」(新井紀子・東中竜一郎,東京大学出版会,2018)のようなホット・トピックの本が並んでいる.しかもキレイだ.僕が手に取った3冊の本全て新品同然で,おそらく誰もわざわざこんなところにこんな本を読みに来る人はいないのであろう.いるとすれば,それはたまたま近所に住んでいるエアプ情報系のオタクくらいなもんである.

そんなことはさておき,今日は「ロボットは東大に入れるか」を読んだ.もちろん,数年前に話題となった「東ロボくん」の研究の筆頭であり,ベストセラーとなった「AI vs. 教科書の読めない子どもたち」の著者が書いた本である.私は残念ながら「AI vs. 教科書の読めない子どもたち」は未読なのだが,おそらくそれと比べて,本書はかなり技術寄りの本となっている.センター試験東京大学二次試験などをいかにしてAIに説かせたかという具体的な方策が記されている.例えば英語だとword2vecや深層学習,その他様々な(驚くべきことに,本当に様々である.著者いわく,当時考えうる全てのアルゴリズム,学習法を試したと記されている)機械学習を用いている.数学だと,数理論理学を用いた自然演繹による解法(とかくと,おそらく著者からそんな単純なことではないぞとマサカリが飛んできそうなものである)や,物理だと驚くべきことに,シュミレーションを用いて答えを導いたそうである.その全てを読むことは私の知識と時間の都合上できなかったが,例えば似たようなAIを組もうとなったときに,この本の示すアプローチは大いに参考になることであろう.(私も、一日一冊と称して関係のない本ばかり読むのでなく、情報系の本を読んだ方が将来的に有意義なのだろうが......)

この本はそのように,技術書としても大きな意味を示すが,本書の最後のあとがきには,おそらく「AI vs....」でも書いたであろう,著者の日本教育に対する警鐘が記されてある.つまり「東ロボくん」は,実際問題分を何も理解することなく,問題を解き,そしてある程度――日本の受験生の平均以上程度の成績を出している.
しかしこれは,AI特有の現象ではないと指摘する.学生に「リーティングスキルテスト」を実施したところ,実にその点数が低い.つまり,我々人間も,問題文や教科書の諸概念の意味をよく理解することなく,それでもなんとなく,表面的には問題が解けているかのように装っているだけだと筆者は述べる.

 

解析学を何も理解せずに解析学の単位を取ったり,量子力学を何も理解せずに量子力学の単位を取ったりしてきた私には,実に耳の痛い話である.