こんちゅう

エッセイ・小説・ブログ・楽譜置き場。 不定期更新。

インストール (一日一冊、2/5)

どうにも私は物事を続けることが苦手な性格らしい。いや、薄々気が付いてはいたのだが、その傾向は大学に入ってからの体たらくに濃縮されて発現したのかもしれない。
そんな性分をなんとか変えるべく、この春休みは少し変わった試みをしようかと思う。「一日一冊、読書感想文」である。

 

もちろんそのポイントは「一日一冊」であることだが、その本は基本的にランダムに選ばれるという特徴を持つ。つまり、図書館に行き、適当に目に入った本を読み、その感想を書くのだ。
もちろん、時間の関係上一日一冊も読んでいたら日が暮れるので、途中まで、あるいは最初の数ページで打ち切ることとなるかもしれない。それでもまあ、自らの知見を広げる役目も兼ね備えて、この春休み、おおよそ2か月の間、コツコツと続けられたらいいなと思う。

 

さて初日、2月5日だが、残念ながら試験があったので図書館に行くことが出来なかった。そこでまあ、家に置いてある本の感想を適当に書いてお茶を濁そうかと思うのだが、そんな中で私が選んだ本は、綿矢りさ「インストール」である。
この本は高校2年生くらいのときにはじめて読んだのだが、私が人生で読んできて最も衝撃を受けた2冊の本のうちの1冊である(もう1冊は、言うまでもなく、村上春樹の「1Q84」だ)。

 

ざっくりとしたあらすじは、不登校になった女子高生が同じマンションに住む小学5年生の男児と共にエロチャットビジネスをするという、きわめて珍妙な話に見えるが、最も卓越した特徴はその美しい日本語にある。流れるような軽快な日本語に、読者はきっと引き込まれるに違いない。
例として、この本の解説にも載っていたのだが、私が好きな一節を紹介しよう。

 

まだお酒も飲めない車も乗れない、ついでにセックスも体験していない処女の十七歳の心に巣食う、この何物にもなれないといいう枯れた悟りは何だというのだろう。歌手になりたいわけじゃない作家になりたい訳じゃない、でも中学生の頃には確実に両手に握りしめることができていた私のあらゆる可能性の芽が、気づいたらごそっと減っていて、このまま小さくまとまった人生を送るのかもしれないと思うとどうにも苦しい。もう十七歳だと焦る気持ちと、まだ十七歳だと安心する気持ちが交差する。この苦しさを乗り越えるには。分かっている、必要なのは、もちろんこんなふうにゴミ捨て場へ逃げ出すのではなく、前進。人と同じ生活をしていたらキラリ光る感性がなくなっていくかもなんて、そんなの劣等生用の都合の良い迷信よ、学校に戻ってまたベル席守ることから始めなさい! 光一口調で自分を叱ってみたが、しかし、やっぱり私は動けなかった。自分にほとほと呆れ、仰向けになってさびれたコンクリートの四角の切れはしからのぞいている暮れかけの空を見上げる。
光一の言葉、時々母にも言われる言葉を思い出した。
あんたにゃ人生の目標がないのよ。

 

このリズミカルなことばに乗って、リアリティがまざまざと湧き上がる。この本は間違いなく、私の一生の「日本語の教科書」となることだろう。

 

 

インストール (河出文庫)

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