こんちゅう

エッセイ・小説・ブログ・楽譜置き場。 不定期更新。

演出家の仕事 (一日一冊、2/7)


さて読書感想文も3日目に突入した.3日坊主とはよく言うものの,3日も続けば私にとっては上出来である.願わくば,明日も続くことを期待するが.

私は今日所用につき大学へやってきた.大学の図書館は地元の図書館と比べて比べ物にならないほど広いので,様々な本に出会える.
がしかし,私のやることといえば変わらない.ただ図書館に入り,そのへんの戸棚から,少しでも興味を持ったものを手に取るだけである.

私が今日手に取ったのは,新書コーナーからの一冊,「演出家の仕事」(栗山民也,岩波新書,2007)である.演出家といっても一部オタクから何故か嫌われている某ドルマスターのライブ演出家の意味ではなく、この本の著者の栗山民也は舞台演出家で,この記事を書いているわずか2日前に第26回読売演劇大賞を受賞したらしい.めでたい話である.

残念ながら私は,舞台という舞台をほとんど――それこそ,親戚が出演する小規模な舞台など以外は,全く見たことがない.そのため,そもそも「戯曲」とは何かすら知らなかった.
そんな状態で読んだ本なので,まして演劇の演出家について書かれた本など読んだところで何か得るものがあるのかと思うかもしれないが,この本は実に平易に,つまり我々のような素人でも言いたいことが伝わるように書いてある.

 

まずこの本において最初に,「聞く」力がいかに大切かということが述べられている.例えば舞台だと,役者はセリフを覚えてそれを発するのが仕事である.しかしながら,そのセリフの前にどんなセリフが投げかけられていたかをしっかりと「聞か」ないと,真の演技とは程遠くなってしまう.つまり,聞く力とは,物事に対してその裏に潜む人間の心の動きを読み取る力であるという.
「聞く」という行為はそれだけにとどまらず,例えば世界の悲惨な歴史に耳を傾けたり,各地域の伝統や風俗に心を寄せてみたりと,様々な方面に発達する.日頃から,様々な物事に対して積極的に「聞く」ことを意識することで「聞く力」が養われ,「聞く」ことによって様々な価値観,立場が生まれた役者たちが生み出す一見不調和な衝突こそが,真の調和を生むと,筆者は力強く主張する.

 

その後の章では,具体的な舞台演出に関連して,聞く力を根幹としながら解説をしていく.それらのエピソードも非常に興味深かったのだが,なにせ私は演劇をほとんど見たことのない人間なので,そこに関していろいろとやかく言うのはあまりに経験不足であろう.しかしとにかく,はじめの1章,たった20ページのうちに,筆者が得てきた「聞く力」についてが濃縮されている.これは非常に,特に芸術に興味のある人にとっては十分に価値のある本だと言えよう.

 

演出家の仕事 (岩波新書)

演出家の仕事 (岩波新書)